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2025年の気候変動をめぐる10のハイライト

2025年は気候変動にとってどんな年か

2024年を振り返って

2024年は、世界各地が記録的な熱波や極端な異常気象に襲われ、気候変動がスピードを上げて進行していることを実感させられる1年となりました。世界気象機関(WMO)は、2024年は産業革命前の水準から1.55℃上昇したと伝えています。日本も前年に続き、各地が猛暑に見舞われ、健康被害や、農水産物の不作や不漁など多方面に影響が出ました。9月には、元日に地震の大きな被害を受けた能登半島地方に、豪雨災害が重なりました。文部科学省と気象庁は、これらの熱波や豪雨には気候変動の影響があると結論づけており、7月の東北地方日本海側の豪雨や9月の奥能登の豪雨は、地球温暖化に伴う気温上昇によって雨量が15〜20%増加した可能性を指摘しています。 

国内では、数年に1度実施される気候・エネルギー政策の見直しが5月頃から始まり、年末に向けて、経済産業省の審議会を中心に頻繁に会議が開催されました。日本の温室効果ガス排出削減の道筋やエネルギー需給の方向性を決める重要な決定事項でしたが、関係者や市民に開かれた幅広い議論は行われず、11月の石破政権誕生後も変化はなく、政府主導で12月に案が取りまとめられました。この案に基づき、2025年初頭に政策方針が決定されます。 

2025年の行方

2025年に入って、気候変動に取り組む国際情勢が大きく揺らいでいます。1月20日に誕生したトランプ米大統領は、就任初日から気候変動に関連する政策の廃止や撤廃などを続々と発表し、米国内はもとより、国連の枠組みや途上国支援など世界に影響が及ぶ懸念が広がっています。一方、パリ協定の下で各国に提出が求められる「国が決定する貢献(NDC)」は、2025年2月が期限でしたが、間に合わせられたのは十数カ国にとどまり、9月に国連が統合報告書をまとめるまでにどれだけの国が提出できるのか、また温室効果ガス排出削減目標がどれだけ野心的に示されるのかが、今後の世界の気候変動対策の進展の試金石になります。年末にブラジルで開催されるCOP30(気候変動枠組条約第30回締約国会議)では、気温上昇を1.5℃に抑制する目標の実現可能性が厳しくなる中、各国の対策強化を引き出す合意の実現が求められます。 

国内では、2月に地球温暖化対策計画やエネルギー基本計画が決定されました。政府の温室効果ガス排出削減目標やエネルギー転換のための対策は、緊急性を増す脱炭素化に求められる水準に対して不十分であり、各種の政策措置が整わないことによる更なる対策の遅れの懸念もあります。また、政府による液化天然ガス(LNG)の利用や、水素・アンモニア事業、二酸化炭素回収貯留技術(CCS)などへの財政的な支援によって、再生可能エネルギーへの転換が進まない可能性があるなど、脱炭素化への先行きの不透明さが多く残されています。どれだけ着実に具体的な対策が足元から進められていくのかが試されます。 

ハイライト概要

解説

1. 国会法案審議(1月-6月) 

2025年の第217回通常国会では、温室効果ガス排出削減やエネルギー転換に関連する法改正が予定されています。 

EEZで浮体式洋上風力を推進するための法改正案(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案)では、洋上風力発電所の設置をこれまでの港湾や領海内から排他的経済水域(EEZ)に広げるため、国が区域を指定し、利害関係者と協議会を設置し、基準を満たした場合に許可する流れなどが定められます。昨年の通常国会で提出された法案ですが、法案審議の優先順位が低く、衆議院通過後、参議院で審議未了となり、解散総選挙で廃案になるという残念な結果に終わりました。今回の再提出で、優先的に審議して成立させ、洋上風力事業を進展させることが求められます。また、当初より遅れている浮体式洋上風力発電の目標についても、法改正後に意欲的な水準で導入目標を定めることにより、事業化に弾みがつくことが期待されます。 

GX推進法の改正案(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の改正案)は、GX推進の方針の下、一定規模の事業者に参加を義務付ける排出量取引制度の法制化(2026年度から導入予定)や、化石燃料賦課金の執行にかかる事項の決定(2028年度から導入予定)、さらに、GX分野の一部の物資に税額控除を行うための減収を補填する財政支援の位置付けなど、GXの推進を図るためのより具体的な仕組みを整備するための改正です。これらの制度設計の詳細によって、事業者の排出削減が着実に進められるか否かが決まってきます。特に、排出量取引制度の制度設計は、日本のこれからのカーボンプライシングの実効性を図る上で重要です。 

2. トランプ米大統領就任(1月20日 )

トランプ大統領は、再び安価な価格でエネルギーを供給できる大国にするという方針の下、気候政策を大きく後退させる各種の大転換を手がけ始めています。その内容は、パリ協定からの離脱通告、気候変動枠組条約の下の資金コミットメントの無効化、液化天然ガス(LNG)の輸出認可の一時停止措置の解除、大規模風力発電へのリースの終了、さらに、環境保護庁(EPA)や海洋大気庁(NOAA)など関連する組織や職員、予算のカット、環境関連のデータ収集の廃止など、最低限の対策の継続も困難になりかねない措置をとっており、影響の大きさは計り切れません。一方、厳しい状況下でありながら、脱炭素化へのうねりを停滞させないために、国内外で協調した取り組みを図ろうする連帯の強まりも見られており、国際協調の重要性が高まっています。 

3. 各国のNDC提出(2月(→9月)) 

パリ協定に基づき、締約国は、温室効果ガス排出削減目標や政策措置を定めた「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution:NDC)」を5年に1度提出することが義務付けられています。今年提出が求められているNDCは、2030年以降の各国の目標や対策を定めるものであり、1.5℃目標達成の実現可能性に向けてどれほどギャップがあるのかを示すものになります。国連は各国のNDCを元に、9月に統合報告書を取りまとめ、 COP30(以下10参照)の交渉の土台にする予定ですが、2月10日の期限までに提出した国は十数カ国にとどまり、大きく遅れているため、多くの国々のNDC提出が待たれています。また、提出するだけではなく、掲げる目標や政策措置が1.5℃目標と整合性が図られるよう、その意欲の度合いも問われています。 

4. エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画決定(2月18日) 

2024年春から年末にかけて、政府は気候・エネルギー政策全般の見直しを行い、同年12月に「第7次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」「GX2040ビジョン」の案を取りまとめました。2025年1月下旬までの約1カ月のパブリックコメント期間を経て、2月18日に同時に閣議決定されました。決定された温室効果ガス排出削減目標は、2035年度60%削減・2040年度73%削減(2013年度比)となりました。企業グループやNGOなどからより高い目標を掲げる意見も多数出されましたが、引き上げにはつながりませんでした。エネルギー政策に関しては、再生可能エネルギーを主力電源化するとしつつも、原子力発電やLNG火力を利用する方針を掲げており、多様なエネルギー源を推進するという政府の従来方針を維持しているため、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が十分な速度で進まないことも懸念されています。(参考:Climate Integrate 「第7次エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画・GX2040ビジョンを読み解く」(2025.3)) 

5. SSBJ情報開示基準公表(3月) 

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、国際会計基準(IFRS)財団傘下の国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)の開示基準(ISSB 基準)に準じた日本版のサステナビリティ情報開示基準を公表しています。このうち気候関連開示基準は、GHGプロトコルに基づくスコープ3の測定や地球温暖化対策推進法に基づく測定を採用した場合の取扱い等を定めています。SSBJ基準は、まずプライム市場上場企業のうち時価総額3兆円以上の69社(時価総額カバレッジ55%)を対象に、2027年3月期有価証券報告書から義務化し、2028年3月期からは時価総額1兆円以上の179社(時価総額カバレッジ74%)、2030年代にはプライム市場全企業へと対象を拡大する予定です。これらの開示義務化が進むことにより、透明性の高い移行計画が策定され、投資家が企業の気候変動リスクや機会を的確に把握し、結果として脱炭素化が加速することが期待されます。 

6. 改正建築物省エネ法施行(4月1日) 

改正建築物省エネ法の施行により、4月より新築されるすべての住宅や建築物で省エネ基準適合の義務化がスタートします。ただし、義務化される基準は、住宅の断熱等性能1~7の等級のうち「等級4」です。2019年時点で、新築住宅の8割以上がすでに「等級4」を達成しているため、下限を定める意味はあっても、断熱性能向上の効果はわずかにとどまります。政府は、「等級6以上」に相当する脱炭素志向型住宅(GX志向型住宅)への支援措置も始めているところです。住宅や建築物は、一度建設すると長期間利用されるため、2050年以降にも利用され続ける可能性が高い新築の住宅や建築物は、すべてゼロエミッション化する仕様で設計・建設される必要があります。 

7. G7サミット(6月15-17日(カナダ・カナナスキス)) 


今年のG7主要国首脳会議は、カナダのカナナスキスで開催されます。これまで金融業界の脱炭素化を牽引してきたマーク・カーニー氏が3月に新首相に就任したことによる気候外交のリーダーシップも期待されますが、トランプ米政権による関税措置の発動など、米経済対策が国際協調よりも国際競争へと軸足が移る中、米国に厳しい姿勢で臨むカナダが、4月の総選挙を経てどのような議題を取り上げサミットを采配していくのかは、今後のG7諸国の関係の行方などにも影響を与えそうです。近年のG7サミットは、年末のCOPの交渉に先駆けて、先進国として一歩率先して踏み出した合意を図ることで、世界全体の合意を牽引する役割も担ってきましたが、今回のサミットではアメリカを含めた意欲的な合意は期待できそうもありません。イギリスでは、労働党政権が大勝して14年ぶりに政権交代し、スターマー首相が気候外交を牽引していく可能性がある一方、ドイツでは、2月の総選挙で社会民主党が議席を大きく減らし、キリスト教民主・社会同盟 (CDU・CSU)が第1党となり、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進したことで気候外交でリーダーシップが図れるのか見通せないという不確定要素もあります。その中で、カーボンニュートラルを掲げ続ける日本がどのような立場をとるのかも注目しなくてはなりません。 

8. 都議選(6月22日)+ 参院選(7月20日頃)

12年に1回、参議院議員選挙(3年ごと)と東京都議選(4年ごと)が重なる選挙の夏となります。政治とカネの問題などにより自民党政権の支持率が低迷する中、選挙結果は、政権運営に大きな影響を及ぼすことになります。また、政権選択の機会となる選挙において、気候変動やエネルギー対策がどれだけ議論の争点になっていくかが注目されます。猛暑、森林火災、豪雨、エネルギーや食料価格高騰など、気候変動に関連する災害や経済影響は国民の日常生活に深く影を落としています。候補者には、選挙を通じて、気候変動に関する有権者の日々の懸念や関心と政治課題を結びつけながら、国政や都政において脱炭素をいかに進めていくのか、その課題認識と展望を多く語り、選択肢を示してほしいところです。 

9. GX経済移行債の第3回発行(7月・10月) 

GX推進のためのGX経済移行債は、「クライメート・トランジション利付国債」という個別銘柄で、これまで2023年度の第1回(24年2月/計2回、総額約1.6兆円)、2024年度の第2回(24年5・7・10月、25年1月/計4回、総額約1.4兆円)が発行されました。2025年度の第3回(25年7・10月、26年1・3月/計4回)は、総額1.2兆円の発行が予定されています。これらの資金は、GX投資戦略に基づく分野に充当されていますが、これまで特に蓄電池や半導体、住宅・建築物対策などに多くが振り向けられています。また分野横断的措置として、研究開発にも多くの投資が行われています。水素・アンモニア関連の事業は当初は含まれていませんでしたが、第2回目の発行以降、資金使途に含まれていることが確認されています。これら多額の投資については、透明性の高い情報開示の下で、費用対効果や温室効果ガス排出削減効果などの評価検証が適切に行われていくことが重要になってきます。 

10. COP30(11月10日-21日) 

30回目を迎えるCOP。気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)は、ブラジルの北部、アマゾン地域に位置するベレンで開催されます。環境対策に積極的なルラ政権は、熱帯林保護活動で知られ、過去にも環境大臣を務めたことがあるマリナ・シルバ氏を「環境・気候変動省」の大臣に任命し、COP30でのリーダーシップを図っていく意向です。一方、前述の通り、各国のNDCの提出が遅れているため、1.5℃目標とのギャップを埋めるための情報を集め、交渉に臨めるのか、厳しい綱渡りになります。また、米国が実質的に離脱している状況のため、国連の下での排出削減対策の強化を図る合意の締結や、途上国への資金支援などにおける具体的な成果に影響を及ぼすことは否めません。これからの国際舞台で気候外交を牽引する新たな国やリーダーの登場にも注目が集まるかもしれません。