

はじめに
「アジア・ゼロエミッション共同体」(Asia Zero Emission Community:AZEC)は、アジアにおけるエネルギー転換と産業の脱炭素化のために日本が主導する地域間協力の枠組みです。各国政府、公的機関、民間セクターが連携し、さまざまな事業を推進しています(詳細はレポート「What’s AZEC?」、インサイト「What’s New in AZEC?2025年の進捗とポイント」をご参照ください)。
AZECの覚書案件(Memorandum of Understanding:MoU)が数百件へと拡大するなか、案件数だけではなく、それらの事業がどの程度進展し、アジアの脱炭素化にどのように貢献しているのかが注目されます。
本インサイトでは、公表情報*に基づき、2024年末までに締結されたAZECの覚書案件のもとで進められている各事業の進捗状況を検証しています。公表情報の調査と進捗段階別の分類を通じて、AZECの実施状況の把握を試みるとともに、アジアの脱炭素化への貢献を評価する上での課題を明らかにしています。
*公表情報とは、政府文書、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)が発行するAZEC Progress Report、経済産業省による資料、企業のプレスリリース、事業のウェブサイト、その他の閲覧可能な情報源を指します。
分析方法
本インサイトは、2023年および2024年に合意された計217件の覚書案件を対象としています。今回の分析では、公表情報をもとに進捗状況を把握するため、覚書締結から一定の時間が経過している事業に焦点を当て、2025年以降の覚書案件は対象から除外しました。
調査の結果、217件の覚書案件のうち、139件について進捗状況が確認できました。一方、約35%にあたる78件については、進捗状況に関する情報を確認することができませんでした。そのため本分析では、78件は対象には含めず、139件について分析しています。なお、進捗状況を確認できた案件についても、事業スケジュール、資金調達状況、想定される排出削減効果、相手国のエネルギー転換戦略との整合性などの重要な情報の多くは、公表情報では入手できないか、更新されていないままであるため、把握できる範囲での分析となっています。
分析対象とした139件は、Climate Integrateが独自に定義した以下の5つのステージに分類しました。
ステージ0:合意
覚書が締結され、調査、研究、実証、計画策定などの協働に関する合意が表明されているものの、具体的な事業の進捗を確認できないもの
ステージ1:調査・計画
調査、研究、基本設計(FEED:Front End Engineering Design)、詳細設計、実証、技術試験、その他の調査・計画段階にあるもの
ステージ2:事業化
資金調達、投資判断、資材調達、建設、設備導入、その他の事業化段階にあるもの
ステージ3:運用
商業化などの運用段階にあるもの
ステージ4:その他
AZECの事業ではあるが、上記いずれのステージにも明確に当てはまらないもの
AZECの覚書案件の現状
以下、139件の覚書案件について、進捗状況の分析結果を示しています。
ステージ別の内訳では、ステージ1(調査・計画)が最も多く(67%)、次いで、ステージ0(合意)が14%、ステージ2(事業化)が11%を占めています。このことは、ほとんどのAZECの覚書案件が、依然として初期段階にあることを示しています(図1)。

協力分野別の進捗状況を見ると、最も案件数の多い「水素・アンモニア」分野は、多くの事業がステージ1(調査・計画)となっている一方で、「再エネ」「バイオマス・バイオ燃料」分野では、ステージ2(事業化)やステージ3(運用)に進んでいる事業の割合が高くなっています(図2)。

参加国別では、進捗を確認できた案件数はインドネシアが最も多く、ベトナム、タイ、マレーシア、オーストラリアが続いています(図3)。この傾向は、インドネシアがAZECにおける最も活発な協力相手国であることや、政府が関与するエネルギー・公益事業関連企業が中心的に事業を推進しているという、AZECの覚書案件全体の状況と一致しています。

おわりに
本分析では、公表情報に基づき、2024年末までに合意されたAZECの覚書案件の進捗状況を検証しました。計217件の覚書案件のうち、約35%にあたる78件については、公表情報から進捗状況を確認できなかった一方、139件の事業については、以下の進捗状況が確認されました。
- 67%がステージ1(調査・計画)、14%がステージ0(合意)の段階にあり、情報が確認できるAZECの覚書案件の大半が、依然として初期段階にあることがうかがえます。
- 18%がステージ2(事業化)またはステージ3(運用)まで進展しており、一部の事業は計画段階を超え、具体的な進展につながっていることを示しています。
- 「水素・アンモニア」分野は、進捗を確認できた事業の中で最も案件数が多く、特にステージ1(調査・計画)が多くなっています。
- 「再エネ」「バイオマス・バイオ燃料」分野の事業は、ステージ2(事業化)以降への進捗が比較的進んでおり、運用段階に至った事業も含まれています。
しかし、上記139件の事業においても、事業スケジュール、資金調達状況、想定される排出削減効果、相手国のエネルギー転換戦略との整合性といった事業の詳細を確認することはできませんでした。
この結果は、AZEC事業の進捗を追跡する上で、透明性の向上が重要であることを示しています。AZECは公的資金の支援により日本政府が主導するイニシアティブです。このうちのいくつかの事業は、日本の排出量取引制度(GX-ETS)のもとで、日本企業が自らの目標達成のためにオフセット・クレジットとして用いられる可能性もあります。そのため、各事業がどのように進展しているのか、相手国の脱炭素化の道筋にどのように貢献しているのかについて、詳細かつ最新の情報にアクセスできることが重要です。
事業の進捗情報を定期的に更新し、だれもが閲覧できる仕組みが整備されれば、すべての参加国やその関係者がAZEC事業の実施状況と成果への理解をより深め、その恩恵を受けることが可能になります。このような透明性の確保は、日本によるアジアの脱炭素化への貢献を図る上でも、より確かな基盤となります。