

はじめに
2023年3月に発足した「アジア・ゼロエミッション共同体」(Asia Zero Emission Community: AZEC)は、アジアでの協力を促進するために日本政府が主導している枠組みです。AZECには各国政府、公的機関、民間セクターが関わり、多様な道筋によるネットゼロ、および経済成長とエネルギー安全保障に力点を置きながら、幅広い技術やプロジェクトでの協力を推進しています。
本インサイトは、2025年7月に公表した最初のレポート「What’s AZEC?」以降、2025年に開催された主要会合や、制度面における発展と協力案件の新動向に焦点を当て、AZECのその後の進捗について分析しています。2025年レポートでは、AZECの設立経緯、日本の産業戦略であるグリーン・トランスフォーメーション(GX)における位置付けと2024年までの覚書(Memorandums of Understanding: MoUs)の傾向を解説・分析しています。AZECの背景、ガバナンスと初期の実施状況等については、2025年レポートをご参照ください。
2025年のAZEC会合における進捗
2025年のAZEC会合は、10月に第3回閣僚会合がマレーシアのクアラルンプールで開かれ、その直後に第3回首脳会合が開催されました(図1)。議論の重点は、2024年の第2回首脳会合で採択された「今後10年のためのアクションプラン」を踏まえ、これまでに合意された協力分野の履行に置かれています。

AZECの覚書案件が増える中、参加国は、覚書での合意を具体的な事業に移し、測定可能な進捗を図りながら実施につなげていく必要性を強調しています。また、AZECアドボカシー・グループ(ASEANビジネス諮問委員会(ASEAN-BAC)、日本経済団体連合会(経団連)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)が主導)は第3回閣僚会合の共同提言で、規制、資金調達と事業課題に取り組むため、政府、産業、金融セクター間のさらなる協力強化を要請し、アジアにおける公正で包摂的なエネルギー転換を支えるために、AZECに対して、統一基準、透明性の高い炭素市場ならびに大規模展開が可能な脱炭素化事業を促進するよう求めています。
2024年以降のAZECの覚書案件と事業の傾向
AZECの覚書案件数は、2024年の217件から2025年には335件へと増え、参加国と追加的な協力合意が締結されています。国別ではインドネシアに集中しており、引き続き最も積極的な参加国であることを示しています。次に、ベトナム、タイ、マレーシアとフィリピンが高い関与を維持している一方で、他のASEAN加盟国および国際機関の参加は限定的です。
協力案件全体における地理的な特徴には大きな変化はなく、参加国間に偏りがあります(図2)。

2025年は、炭素クレジットと農業・生態系管理に関する覚書が協力分野の中で最も大きな割合を占めています(図3)。また、水素・アンモニア、バイオマス・バイオ燃料、液化天然ガス(LNG)といった燃料に関する協力も引き続き主要な分野となっています。協力分野の多様化は進んでいるものの、AZEC全体において再エネおよび省エネが占める割合は小さいままです。

日本企業では、炭素クレジットおよび温室効果ガス(GHG)算定に関わる企業が最も多く、水素・アンモニアに関わる企業も引き続き多い状況です(図4)。

相手国企業は、インドネシアの PertaminaとPLN、それに続くマレーシアのPETRONASやタイの主要企業といった少数の大手エネルギー企業に引き続き集中しています(図5)。協力分野はこれまでと同様、化石燃料、CCUS、水素・アンモニアが多く、ほかの分野の企業や、関与が少ない国の覚書は限られています。

おわりに
AZECでは、2025年に炭素クレジットへの関心の高まりという新たな傾向がみられました。一方、AZECの仕組みや、燃料および水素・アンモニアへの偏りに変わりはありません。炭素クレジット関連の案件の増加という新たな傾向からは、国内で2026年度から排出量取引制度(GX-ETS)が本格始動するのにあたり、政府および日本企業の関心が高まっていることがうかがえます。GX-ETSでは、企業は二国間クレジット制度(JCM)とJ-クレジット制度によるクレジットを排出量の10%まで利用することができます。今後、AZEC事業がGX-ETSとどのように結びついていくかを注視していくことが重要です。
また、ASEAN諸国のカーボンニュートラルの実現に向けたエネルギー転換を進めるため、排出削減を加速させる技術を優先して推進することが重要です。2026年のAZEC関連会合は、フィリピンで開催される予定です。