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2024年の気候変動をめぐる 10のハイライト

2024年は気候変動にとってどんな年か

2023年を振り返って

2023年は、世界中で記録的な熱波や海水温の上昇がみられ、観測史上最も暑い年となりました。日本も厳しい暑さの夏を経験し、農業や漁業、健康などへの影響が広がりました。「地球沸騰化(Global Boiling)」というアントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉も広く取り上げられました。世界気象機関(WMO)によれば、2023年の平均気温は、工業化前(1850-1900)の水準と比べて1.45℃上昇。国際的な目標の1.5℃上昇抑制の水準にせまっており、厳しさを増しています。

2023年は、日本が議長国を務めた G7や、COP28ドバイ会議(気候変動枠組条約第28回締約国会議)で、再生可能エネルギーを拡大し、化石燃料から脱却するとの合意が得られましたが、各国の取り組みや行動強化はまだ不十分なままです。

国内では、「GX推進法」が制定され、グリーントランスフォーメーション(GX)を推進するために、投資戦略に基づいて主要排出セクターへの支援が進められています。ただし、GXの推進による温室効果ガス排出の削減効果ははっきりしていません。石炭火力の利用を制限する動きも鈍く、日本の気候政策にはまだ多くの課題があります。

2024年の展望

今年は世界80カ国ほどで選挙が行われる選挙イヤー。特に注目が集まるのが11月のアメリカ大統領選挙です。6月には世界で最も人口の多い国となったインドの総選挙もあります。国内では9月に自民党総裁選があります。加えて、どこかのタイミングで解散総選挙となれば、その時期は政策より政局が優先されることになります。

政治動向にかかわらず、2024年は気候政策においてとても重要な年です。国際的には、2025年2月までに国連に「国が決定する貢献(NDC)」を提出するため、2035年以降の温室効果ガス削減目標などの検討が開始されます。また、3年に1度のエネルギー政策(エネルギー基本計画)の見直しが始まる年でもあり、日本の2050年カーボンニュートラルの実現に向けた道筋を描く大事な年です。

GX推進に関しては、2月に最初のGX経済移行債(1.6兆円)が発行されました。年内にさらに数回、個別入札を行うことが想定されています。政府の支援が企業のグリーンウォッシュの蔓延を防ぎ、脱炭素化を加速させることができるのか、また、洋上風力などの再生可能エネルギーの導入が着実に進められるのか、など、政策動向が引き続き注目されます。

ハイライト概要

解説

1. 国会審議:水素社会推進法案ほか(-6月)

2024年の通常国会では、改正案を含む多数の法案が提出されています。

水素社会推進法案(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案)は、水素・アンモニア・合成燃料・合成メタンの供給事業者と利用事業者に、コストが高い水素を推進するために化石燃料との価格差を埋める資金や助成金を提供することなどを定めています。課題は、「低炭素水素等」と呼ぶものの中で、化石燃料で製造する水素等と、再生可能エネルギーで製造するグリーンな水素とを一緒に扱っていることです。このままでは化石燃料起源の水素が推進されてしまいます。また、使い道に、水素に価格競争力がないモビリティや発電なども含まれ、再エネをそのまま利用した方が良い分野まで水素利用を推進しようとしていることも課題です。

CCS事業法案(二酸化炭素の貯留事業に関する法律案)は、CO2を地中に貯留するために、CO2を導管輸送したり試掘や貯留したりする事業者の届出や認可の制度を作り、事業環境を整えるものです。火力発電などの大規模排出源からの排出を大幅に削減する対策が不十分な一方で、地中にCO2を埋めて処理する方策の準備の方が先行しています。

洋上風力をEEZに拡大する法改正案(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案)は、洋上風力発電所の設置をこれまでの港湾や領海内から、排他的経済水域(EEZ)に広げるため、国が区域を指定し、利害関係者と協議会を設置し、基準を満たした場合に許可をする流れなどが定められています。

地球温暖化対策推進法改正案(地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案)は、二国間クレジット制度(JCM)の実施を担う指定法人制度の創設などが定められています。

2. GX経済移行債の初回発行(2月

政府は、GX推進法の下、重点分野に先行投資を行う方針で、GX経済移行債(クライメート・トランジション・ボンド)を、2024年2月に10年債と5年債の計1.6兆円を公募入札しました。GX投資対象に含まれる石炭火力におけるアンモニア混焼などの一部の投資対象技術が初回発行では含まれなかったため、機関投資家からの批判に配慮した可能性があります。

3. 洋上風力発電の導入目標設定(春以降

日本は世界有数の洋上風力のポテンシャルがあり、これからの導入拡大が期待されています。現在は着床式の風力発電の案件形成や建設が進められていますが、政府は今後、沖合のEEZに設置区域を拡大して浮体式の洋上風力発電の導入を進めるための目標を設定する予定です。洋上風力発電は日本のエネルギー転換の重要な要であり、新しい産業育成のチャンスでもあります。

4. G7気候・エネルギー・環境大臣会合 (4月28-30日

今年は、イタリアが主要国首脳会議(G7サミット)の議長国です。1.5℃目標の実現に向け、先進国として、昨年のCOP28で合意された「再エネ設備3倍・省エネ速度2倍」の目標や「化石燃料からの脱却」を具体化させる重要な機会です。昨年のG7でも、環境とエネルギーを一体的に話し合う気候・エネルギー・環境大臣会合が気候変動に関する実質的な合意形成の場であり、同大臣会合は、6月のサミットを方向づけることになります。

5. エネルギー基本計画・温室効果ガス排出削減目標の検討(6月頃-2025年春頃

日本のエネルギー政策を定める「エネルギー基本計画」は、法律に基づいて3年に1度見直されます。2024年は見直し開始の年にあたり、2030年以降のエネルギーの在り方が検討されます。電力部門で石炭やLNGの利用を減らし、再エネを大きく増やすこと、熱利用や輸送部門で電化を進め、電化が難しい部門でグリーン水素利用を進めることーこれらが計画にしっかり位置付けられ、政策転換が図られることが重要なポイントです。火力発電や原子力発電を基本としたシステムから脱却し、新しい電力システムを作りあげることができるのかが日本の課題です。

国際的には、5年ごとのNDC (国が決定する貢献)の国連への提出が求められており、2025年2月が次の期限です。NDCには、温室効果ガス排出削減目標やそれを達成するための政策措置を書き込む必要があります。日本は現在、2030年までの目標を掲げていますので、2035年・2040年の削減目標を決定し、政策措置を決定していくことになります。CO2排出の約9割はエネルギー起源ですので、エネルギー基本計画と温室効果ガス排出削減目標の議論が両輪で進められていくと見られています。ただし、政治情勢により時期はまだはっきり見通せません。

6. 欧州議会選挙(6月6-9日

EUは国際的な気候交渉における中核的なプレーヤーであり、経済政策と一体的に脱炭素化を進めるためにグリーンディールの政策を打ち出しています。次のNDCに向けて、欧州委員会は2月に、欧州の気候法の規定に基づいて「2040年90%削減」を勧告しており、これに基づき法案の提案準備などが年内に進められる予定です。議会の足並みがそろえばこの動きに弾みがつきますが、議会構成によっては動きが鈍る可能性もあります。

7. G7サミット(6月13-15日

主要国首脳サミットは、イタリア南部のアプリア(プーリア)で開催されます。今年のサミットも、ロシアのウクライナ侵攻に対する対応が優先課題ですが、気候変動問題や食料問題も重要なテーマです。昨年は、石炭火力全廃、2035年電力システムの脱炭素化、海外の化石燃料事業の公的支援中止、100%ゼロエミッション車の実現などが議論され注目されましたが、日本はこれらのいずれにも消極的な立場で合意が妥協された経緯があります。1.5℃目標の実現には先進国のリーダーシップが欠かせず、G7の合意は、G20やCOP29の合意への重要な試金石となります。

8. 自民党総裁選 <+ 解散総選挙?>(9月)

政治家の数々の不祥事や裏金問題などで岸田政権の支持率が低下しており、次の首相や年内の解散総選挙の可能性なども話題にされ、政治情勢は不安定です。上記に示した通り、気候・エネルギー政策の観点からは、NDCやエネルギー基本計画の検討やG7などの重要な局面があり、政治の関心が政局ばかりに向いてしまうことが懸念されます。

解散総選挙となる際には、選挙において気候・エネルギー政策がどれだけの争点となり、各政党や候補者がどれだけ重点を置くのかは、今後を占う重要なポイントです。激甚化する気候変動は、日本全体の安全保障を揺るがす問題であり、私たちの日々のくらしや経済、仕事と直結します。有権者の関心が高まり、気候・エネルギー政策が重点課題となって選挙が争われれば、その後に変化を生み出すことができます。一人ひとりの有権者の「一票」で政策プッシュをするチャンスにもなります。

9. アメリカ大統領選挙 (11月5日)

バイデン vs トランプの一騎打ちとなった次期アメリカ大統領選挙。「もしトラ」の可能性をめぐってさまざまな憶測が飛び交っています。過去にパリ協定からの脱退を表明したトランプ氏が返り咲けば、気候政策に背を向け、化石燃料開発を促進し、気候政策に停滞をもたらすおそれがあります。一方、インフレ削減法は、国内の多くのグリーン産業に税控除をする仕組みで地域経済に好影響をもたらしており、根幹は揺らがないとも言われます。また2期目のバイデン政権が誕生すれば、1期目以上に積極的に気候政策を牽引すると考えられます。ジョン・ケリーの後任であるジョン・ポデスタ気候変動特使も、年内に公約の中で気候政策方針を打ち出すと表明しています。いずれにせよ、気候変動の危機は消えず、対策強化の必要性は高まる一方です。日本の私たちがとるべき賢明な対応は、振り回されることなく、着実な取り組みを進めることでしょう。

10. COP29 バクー会議(11月11-22日

COP29(気候変動枠組条約第29回締約国会議)は、11月11-22日に、アジェルバイジャンのバクーで開催されます。昨年のCOP28ドバイ会議は、10万人近くに上る過去最高の参加者数となり、最も多くの化石燃料ロビー関係者が参加したと言われています。化石燃料輸出国におけるCOP開催が続くことには、気候交渉が化石燃料ロビーにハイジャックされたという懸念の声もあります。COP29は、資金のCOPとも言われます。気候変動への取り組みには最も脆弱な国の人々への、緩和・適応・損失と被害に対する資金を必要とします。COP29では、これまでの資金の仕組みを見直し、予見性をもって十分な資金を確保するための目標を設定することなどが重要な論点です。また、2025年2月に予定されるNDCの提出に向けて、各国の温室効果ガス排出削減対策を加速させ、1.5℃目標とのギャップを埋めていく強い合意も必要です。