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2022年の気候変動をめぐる10のハイライト

気候変動にとって重要な2022年の10のハイライト インフォグラフィック

2022年はどんな年に?

2021年のCOP26グラスゴー会議(気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、地球の平均気温上昇を1.5℃に抑制することを事実上の気温目標として合意しました。しかし、現状の各国の目標や政策措置は1.5℃目標の達成に全く不足しているため、COP26では、2022年までに、2030年目標を含むNDC(国が決定する貢献)を再提出することを各国に求めています。

よって2022年は、各国が、より緊急性を持って目標や政策を強化し、COP27までに排出ギャップを埋められる対策を前倒しして実施することができるのかが問われる年となります。日本では、現行の目標である2030年までに46〜50%削減(2013年度比)する水準からさらに高みに挑戦していけるのか、またそのために重要な政策変更や強化を実施することができるのかが最重要の課題です。

国際的には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書の全てが2022年中に発表され、最新の科学的な知見が明らかにされます。それを受け、ドイツ開催のG7、国連総会、インドネシア開催のG20、そしてCOP27が、政治的な機運を高め、気候政策を加速させていくことができるのかが問われます。

国内では、すでに始まっている法案審議、関連する政策措置(カーボンプライシングの導入や石炭火力発電の抑制など)の行方が注目点です。さらに参議院選挙の争点としての扱いも注目されるところです。企業にとっては、気候関連の情報開示の義務化の国際的な流れで、サステナブル国際会計基準が春に定められることや、株主提案シーズンに向けた株主アクティビズムがどのようなうねりを見せるのかが関心事でしょう。企業や投資家の脱炭素への方針強化にどう踏み込むかも重要な点です。

一方、ウクライナ情勢がエネルギー政策に与える影響は予断できません。政治的関心の変化やエネルギー供給危機など先行きが不透明な状況の中ででも、短期的な情勢への対応が、脱炭素化への動きを失速させないようにすることが重要です。

ハイライト概要

気候変動にとって重要な2022年の10のハイライト インフォグラフィック 概要

解説

1. 国会法案審議(〜6月)

2022年の通常国会では、気候変動やエネルギーに関する法案が審議されます。このうち注目されるのは、建築物省エネ法の改正省エネ法等のエネルギー関連法を束ねた改正です。

建築物省エネ法改正案は、全ての新築の住宅・建築物の省エネ基準の義務化、木造利用促進などを含むもので、まだ不十分ではあるものの、カーボンニュートラルを実現させていく上での重要な一歩となります。日本では新築への断熱基準が義務化されておらず、他国に大きく遅れていますので、省エネを進めるためには、住宅・建築の断熱をしっかり強化することが大変重要です。ところが、この法案が、通常国会での提出法案の本数を減らすために先送りされそうになっています。法案は、市民や業界団体など多方面から支持があり、今国会での成立が必要な重要法案だという声が多数上がっていますので、早期成立が望まれます。

省エネ法等のエネルギー関連法を束ねた法改正案安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案)は、エネルギー供給構造高度化法、省エネ法、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)法、電気事業法、鉱業法などの改正を経済産業省が束ねて提案し3月に閣議決定されたもので、まとめて審議されます。改正案では、事業者に非化石エネルギーへの転換を促し、計画策定を求めることや、電力需要最適化を図るよう電気料金の整備を促すことなど、脱炭素化を進める内容が含まれています。ただし、非化石エネルギーには、再生可能エネルギーと原子力発電の両方が含まれているため、一緒に推進されることの妥当性は疑問視される課題もあります。また、改正法案には、化石燃料起源のアンモニアや水素を“非化石”と位置づけて促進することや、JOGMECの出資・債務保証業務の対象にアンモニアや水素、CCUS(二酸化炭素回収利用貯留技術) 関連を加えるなど、化石燃料を前提とした技術を推進するものも含まれています。これらのエネルギー関連の束ね法案は、促進されるべき内容と慎重に議論すべき課題を含む内容とが一括りにされ、個別の重要な問題が見えにくくなってしまうところに注意が必要です。

2. 政策強化・NDC強化(3月〜11月)

政府は2021年、2030年の温室効果ガス排出削減目標を46〜50%削減(2013年度比)に強化したことに伴い、エネルギー源や個別部門ごとの削減量を試算し、削減目標に整合させるよう地球温暖化対策計画エネルギー基本計画を改定し、NDC(国が決定する貢献)パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略を国連に再提出しました。

目標の引き上げは、各部門の対策強化が必須ですが、実際には、削減を裏づける施策が未整備な部分が少なくありません。COP26では、2030年のNDCをさらに強化するよう各国に要請していますので、日本においても、現在の2030年目標を強化し、削減を深堀するために政策をさらに強化することが求められます。特に以下の分野の政策措置を強化することが重要です。

エネルギー分野

・2030年までの電力構成における再生可能エネルギー電気・熱のさらなる拡大をもたらす政策強化・市場改革、石炭火力利用の削減・廃止、原子力発電の利用に関する現実的な見直し

産業分野

・エネルギー多消費産業(鉄・セメント・化学・紙パルプ等)部門での脱炭素化への事業転換・資源削減・再エネ導入・省エネ強化を促進する政策強化

建築分野

・新築住宅・建築物のゼロエミッション基準の強化・義務化と、既存住宅・建築物の省エネ改修を加速させる政策強化

交通分野

・電気自動車(EV)への転換の加速・公共交通の利便化を図りモーダルシフトを進める政策強化

3. IPCC第6次評価報告書

第2作業部会(2月)・第3作業部会(4月)・統合報告書(9月)

2021年8月〜2022年9月、「気候変動に関する政府間パネル」の第6次評価報告書(AR6)が段階的に発表され、気候変動に関する最新の科学的知見が示されています。

2021年8月に発表された第1作業部会報告書では、気候変動が人為的なものであることは疑う余地がないと断定し、影響は世界的に顕在化しており、1.5℃に気温上昇を抑制するためには2030年までの大幅な削減が必要であると指摘しています。

2022年2月に発表された第2作業部会報告書では、気候変動が広範囲にわたって自然と人間に悪影響を及ぼし、損失と損害をもたらしていることを明らかにし、気温が1.5℃上昇を超えればさらなる深刻なリスクに直面するとして、適応の限界に達しつつあり行動の緊急性が高まっていると指摘しています。

さらに、4月に第3作業部会、そして9月に統合報告書が発表されます。すでに公表されている範囲でも対策の緊急性が十二分に示されていますので、11月に予定されるCOP27では、これらの科学的知見の公表を受け、各国の目標や対策強化への要請が一層強まることになるでしょう。

4. G7サミット・ドイツ(6月26〜28日)

今年の主要国首脳会議(G7サミット)は、ドイツが議長国です。メルケル首相の後を継いだシュルツ首相は、連立政権の下で気候変動に重点を置いており、石炭火力発電所の全廃について2038年から原則2030年の前倒しも発表しています。褐炭が採掘できるドイツにとっては重大な決定です。さらに2月には、国際環境保護団体グリーンピース・インターナショナルのジェニファー・モーガン代表を国務大臣・気候変動特使に任命しており、ドイツの強力な気候外交の推進が予想されます。

ドイツは、G7の重要テーマの一つに気候変動を取り上げる予定です。G7諸国の米・加・伊・仏・独・英の現政権はいずれも、気候変動への取り組みには前向きです。日米を除く5カ国は石炭火力発電の2030年までの全廃を掲げており、アメリカは2035年の電力部門の脱炭素化を掲げていますので、日本はこれらの分野で方針強化が求められそうです。また、1.5℃の実現に向けたさらなる行動強化や、化石燃料事業の海外支援の中止などについてもより踏み込んだ合意が模索されることも予想されます。ただしウクライナ情勢の影響は見通せないところがあります。

なお、翌2023年のG7サミットは日本で開催される予定です。

5. 株主総会(6月頃)

日本の株主総会シーズンは6月前後です。脱炭素やESG投資の機運の高まりにより、企業にもパリ協定の1.5℃目標と整合した経営や事業が一層厳しく問われるようになっています。ガバナンスや人権に対する適切な対応も要求されます。同様に、年金基金や保険会社、運用会社などの機関投資家の投融資のサステナビリティの説明責任も重要視されるようになっています。日本でもNGOや地方自治体、ヘッジファンドなどから気候変動に関連する株主提案が提出されるようになりました。

企業の経営方針の策定から株主総会で議決権が行使されるまでの間は、株主や機関投資家にとって重要なエンゲージメントの期間です。2022年に、企業・投資家の脱炭素の動きがどこまで拡大するのかは、1.5 ℃の実現において重要です。

気候変動に関連する情報の開示については、TCFDが推奨する開示項目と整合的な国際的に統⼀したサステナビリティ開示基準の策定が進められており、2022年下期に最終基準が決定されます、企業は、開示への対応が求められることになります。

6. クリーンエネルギー戦略(6月頃)

 「新しい資本主義の実現」の下で、岸田文雄首相が打ち出す「クリーンエネルギー戦略」の策定が6月に予定されています。審議は、経済産業省の産業構造審議会・総合資源調査会のそれぞれの小委員会の合同会合で行われています。

戦略では、2021年に策定された「グリーン成長戦略」で特定された、成長が期待される14分野が具体化される予定です。14分野の中には、洋上風力や太陽光などの再生可能エネルギーの推進が含まれている一方で、アンモニアや水素、CCUS・原子力などの削減効果や実現可能性、環境影響などの問題が指摘される分野も含まれています。

岸田首相が2021年のCOP26で行った演説では、発電部門でアンモニアや水素の利用を推進して「ゼロエミッション火力を実現する」ことに力点が置かれていました。しかし、石炭などの火力発電をやめずに、イノベーション技術で脱炭素化を図ろうとすることには、コスト・時間・技術の面で課題も指摘されています。

クリーンエネルギー戦略には、1.5℃実現に資する投資を促進し、速やかなエネルギー転換を進めることが期待されますが、現状のアプローチは、既存の産業構造を前提にイノベーションを促進するものが中核です。転換を遅らせたり抑制したりするのではなく、加速させる戦略が求められます。

7. 参議院議員選挙(7月)

第26回参議院議員通常選挙が7月(7月25日まで)に開催されます。参議院議員の任期は6年であり、3年ごとに半数が改選されます。今回は、定数248名の参議院議員のうち半数の124名+1名(欠員分)が改選されます。

この選挙は、岸田氏の政権運営への評価が下される機会となります。選挙で争われるのは、コロナ、経済、福祉対策などが中心となるとみられますが、現在の不安定な国際情勢を反映し、安全保障や外交、エネルギー問題もテーマに上がる可能性もあります。気候変動や脱炭素については、与野党ともに最重要課題に位置づけるほどの優先度が与えられないことが見込まれます。 ただしそれは、有権者がどのような関心を示すのかに左右され、ウクライナ情勢をめぐるエネルギー課題との関係で、気候変動問題の緊急性や甚大性がどう受け止められるのかにもよるでしょう。

候補者や政党がどう気候変動問題に向き合い、脱炭素化を焦点化するのかは、日本の気候政治の位置を指し示すことになるでしょう。各党の公約では、NDCの引き上げや、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換、アンモニアや水素、カーボンプライシング、産業や建築物、運輸などの分野における施策、そして、クリーンな産業への労働の公正な移行などについてどのような目標や方針を掲げるのかが注目されます。

8. 国連総会・気候ウィーク(9月19〜25日)

アメリカのニューヨークで毎年9月に開催される国連総会にあわせて、国連事務総長が初めて気候サミットを主催したのは、2009年のことでした。以来、毎年、その前後の1週間を気候ウィークと位置づけて数々のイベントが開催されています。2022年の国連総会は9月20日、気候ウィークは9月19〜25日に予定されています。

例年の国連総会のタイミングは、COP(気候変動枠組条約締約国会議)が開催される11〜12月の数ヶ月前にあたり、各国首脳らが気候変動への強いコミットメントを表明し、COPの成功につなげる上で政治的に重要です。気候ウィークは、政府とともに、気候変動に意欲的な企業グループ「Climate Group」などの主導により民間アクターが多数参加し、さまざまな意欲的な取り組みが紹介され、脱炭素への行動強化の機運の向上が図られます。ただし、コロナの影響でオンライン開催が続いており、日本からの参加者も日本に届く情報も限定的になっています。

9. G20 インドネシア(10月30〜31日)

2022年10月30〜31日には、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)がインドネシアのバリで開催されます。インドネシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で唯一G20に参加している国であり、東南アジアでのG20開催は初めてです。

ジョコ大統領は、 G20のテーマをインクルーシブ(包摂的)な健康管理、デジタル経済への変革、持続可能エネルギーへの移行を挙げており、気候変動対策も重要な議題の一つになると考えられます。

インドネシアは、石炭・石油・天然ガスを採掘しており、エネルギー輸出国です。国内でも石炭を多く利用しています。一方、再生可能エネルギーには大きなポテンシャルがあります。近年まで日本からの石炭火力発電所の技術を受け入れてきましたが、2021年には、2060年のカーボンニュートラルを宣言し、脱炭素化を目指す方針を掲げました。G20の1週間後にCOP27が開催されることになるため、G20での進展は重要な意味を持つことになります。

10. COP27 シャルム・エル・シェイク会議(11月7〜18日)

COP27(気候変動枠組条約第27締約国会議)は、2022年11月7〜18日に、エジプトの観光地シャルム・エル・シェイクで開催される予定です。

IPCC第6次評価報告書が出そろい、気候変動の緊急性が共有されることを受け、各国の対策大きく進展させることが期待される重要な会議となります。とりわけ、2030年のNDCの見直し強化を各国から引き出し、その実施を確保させることが重要な点となります。

また、アフリカで開催されるCOPとなるため、途上国、とりわけ脆弱な国々に対する支援に大きな注目が集まることになります。資金目標や供与スキーム、適応対策や損失と被害などへの交渉の進展が図られることも期待されます。

一方、COPでは、市民社会に開かれた透明性の高い会議運営が図られてきた経緯がありますが、エジプト政府が、市民参加の機会をひらき、民主的な会議運営を行うことができるのかについては懸念の声も聞かれます。