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2022年のG7サミットの合意点
ー 広島サミットに向けて ー

2022年6月26〜28日、ドイツのエルマウにてG7サミット(主要7か国首脳会議)が開催されました。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや食料の危機が高まる中、G7は、議長国ドイツのリードにより、気候変動や労働の公正な移行、コロナ、ジェンダー平等などについて解決策を探っていくことを確認し、気候変動や生物多様性の目標と、ロシアのエネルギーからの依存脱却のいずれも妥協しないことを確認しました。

2023年のG7サミットは日本が議長国であり、広島で開催が予定されています。G7と世界の気候変動対策をさらに前進させるため、2022年のG7サミットの気候変動に関する合意を以下に整理します。


(ダウンロード版(A4判4ページ)はこちら)

 

Ⅰ. 主な合意点

 

合意文書である「G7首脳コミュニケ(原文日本語)」では、5月26〜27日のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の合意(原文日本語)を土台に、気候変動に関して、主に以下の点に合意しました。

1. 気温上昇を1.5℃に抑制するために、気候変動への取組を強化

現在の世界全体の対策が「パリ協定」の目標を達成するのに不十分であることを認識し、2030年目標(国別の貢献: Nationally Determined Contribution)を達成するために国内の温室効果ガス排出削減対策を効果的に実施することや、部門別の目標や二酸化炭素(CO2)以外の副次的な目標、厳しい措置を採用し強化することなどを含め、野心を高めることを約束しました。

2. 2035年までに電力部門を「完全」または「大部分」脱炭素化 ー 石炭火力のフェーズアウトを優先 ー

省エネルギーや再生可能エネルギー中心のエネルギー供給は、経済的に賢明かつ実現可能で、信頼性があり、安全であることを認識し、2035年までに電力部門の完全または大宗(大部分) の脱炭素化の達成を約束しました。特に、石炭火力発電は世界の温暖化の最大の原因であるため、排出削減対策が講じられていない石炭火力のフェーズアウト(段階的廃止)を加速する目標に向け、取り組んでいくことも約束しました。また、再生可能エネルギー拡大の障壁や障害を取り除き、全ての部門での再エネの拡大やエネルギー消費の削減を約束しました。

3. 国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を2022 年末までに終了

排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022 年末までの終了を約束しました。ただし、ロシアのエネルギーへの依存から脱するために、気候目的に合致し、ロックイン効果をもたらさないならば、ガス部門への公的支援は一時的な対応としては適当であるという認識も示しました。

4. 1000億ドル資金目標の早期達成と、適応のための資金の倍増を約束

気候変動枠組条約締約国会議(COP)で合意された気候資金の動員目標である1000億ドルの達成を、可能な限り早期かつ2025年までに達成することを再度約束しました。また、適応のための資金を2025年までに2019年の水準から倍増させることを改めて確認しました。特に脆弱な国々の損失及び損害* を回避し、対応するための支援の拡大が緊急に必要であることも確認しました。

* 損失と損害(Loss & Damage)とは、適応策を講じたにもかかわらず、気候変動の影響によって実際に生じてしまう損失と損害を指す。

5. 労働の公正な移行を支援しつつ、エネルギー転換を支援

化石燃料への依存を低下させ、クリーンエネルギーの移行を加速させる方針の下、「世界のインフラ・投資のためのパートナーシップ(PGII)」の支援を受けて、「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」などを通じて、途上国の公正な移行を支援することを表明しました。 気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で発表された南アフリカへの支援に続き、インドネシア、インド、セネガル、ベトナムのJETPに関する取組の準備が進められています。

6. 「気候クラブ」で、産業セクターの脱炭素化を促進

オープンで協力的な「気候クラブ」を2022年中に設立することを決定しました。気候クラブは、以下の3つを柱に産業部門の脱炭素化を進めることをめざしています。

(1)  排出量の算定・報告メカニズムを強化し、国際的にカーボンリーケージに対処

(2)  脱炭素化を加速するため、共同で産業を変革(産業脱炭素化アジェンダ・水素行動協定・グリーンな産業製品の市場拡大などを通じて)

(3)  気候行動を促進し、社会経済的便益を引き出しつつ、 公正なエネルギー移行を促進するため、パートナーシップと協力を通じて国際的な取組を強化


G7合意のポイント


● G7のリーダーシップとして不十分さが多く残るが、気温上昇を1.5℃に抑える決意と行動強化を約束し、石炭火力のフェーズアウトを優先し電力部門の2035年までの脱炭素化を約束したことは、取組の加速につながるもの。G7が石炭火力発電のフェーズアウトに合意したのはこれが初めて。

● 国際的な支援に関して、昨年のG7の「石炭火力発電」から、2022年は「化石燃料エネルギー部門全体」の直接支援の終了に踏み込んだ。途上国支援のための資金は、緩和(排出削減対策)・適応(気候影響への対処)の両方に増額が必要であることを確認したが、それ以上の合意には至らなかった。

● 途上国と先進国がパートナーシップを組んだ公正な移行の支援や、産業部門の脱炭素化を進める「気候クラブ」を通じた国際的なカーボンリーケージ問題への取り組みなどの動きは新しい。どう進められるのかはこれから注目される。

● 生物多様性についても、国内・世界で、2030年までに少なくとも陸地の30%・海洋の30%を保全・保護することや、生態系回復へ、自然を活用した解決策(Nature-based Solutions: NbS)の実施を主流化・強化・拡大することなどを約束。

 

Ⅱ. 日本の立場      
ー 2023年広島G7サミットに向けて ー

 

1. 日本の独自解釈

日本政府は、G7の一員として首脳コミュニケに合意していますが、一部に独自の解釈が見られます。他のG7諸国と解釈の違いが大きい2つの用語を取り上げます。

・大宗(predominantly)

2035年の電力部門の脱炭素化についての合意は、「完全(fully)」と「大宗(predominantly)」が併記されました。政府が「大宗」と訳す“predominantly”は、通常「大部分」「圧倒的」などと訳されます。合意には具体的な数値は示されていませんが、国際エネルギー機関(IEA)が2021年10月に発表した2050ネットゼロに向けたG7の電力脱炭素化シナリオでは、2035年には石炭火力はゼロ、ガス火力は2%のみであり(図)、2035年の非化石燃料の割合は98%となっていることから、G7の合意は「ほぼ完全に脱炭素化」を意味するという解釈が一般的です。

IEA資料 (PPT) より、Climate Integrate訳

一方、日本では、以下の会見等で説明されているように、“predominantly”は「半分以上」という受け止めがされており、国際認識と大きな乖離があります。


山口環境大臣(当時):「何割が”predominantly”かというのは、必ずしも決まった定義はないのでしょうが、少なくとも半分以上というところでもって、よしと」
山口大臣閣議後記者会見録(2022.5.31)

萩生田経済産業大臣(当時):「日本が考えるカーボンニュートラルのスケジュールと齟齬がない」
萩生田大臣閣議後記者会見概要(2022.5.31)

日本の「第6次エネルギー基本計画」の2030年の化石燃料の割合は41%であり、2035年の計画はまだ策定されておらず、脱炭素化を実現する姿は描かれていません。この状況において、今回のG7合意が日本のスケジュールと「齟齬がない」と説明する根拠がありません。合意に沿うなら、電力部門の脱炭素化に向け、火力発電の削減を前倒しする2035年の計画を策定することが必要となると考えられます。

・排出削減対策が講じられていない(unabated)

政府は、“unabated coal power generation” を「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電」と訳しています。この“unabated”について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2022年4月の第6次評価報告書第3作業部会の報告書(SPM36, footnote55)の中で、「温室効果ガスの排出量を大幅に減らす措置をとっていないもの」を指すとし、大幅削減の措置の目安として「発電所から90%かそれ以上回収」していることを例に挙げています。これに基づけば、温室効果ガス排出量のうち90%を回収・貯留する(CCS: Carbon Capture and Storage)施設が備わっていない発電所は「排出削減対策が講じられている」という定義に該当しないと考えられます。

日本政府は、「ゼロエミ電源」として、石炭火力発電所へのアンモニア混燃を進めていますが、2030年までの混燃率の目標は「20%」です。また、現状では、国内の石炭火力発電所にはCCUSの備えがありませんので、IPCCの考えに基づけば、「排出削減対策が講じられている」との定義に当てはまる石炭火力発電所は、2030年段階では存在しない可能性が高いとみられます。つまり、今回のG7合意は、従来の政府方針とは整合せず、今後は石炭火力発電所のフェーズアウトを進める必要性があることを意味していると考えられます。

2. 2023年広島G7サミットに向けて

2023年のG7サミットは日本が議長国で、広島で開催される予定です。

2023年には各国の気候変動の取り組みや目標を評価するグローバル・ストックテイクが行われます。G7がそこへの足がかりを作り、1.5℃目標の実現に向けて気候変動対策をさらに強化し加速させるよう結束し、より強いコミットメントを成し遂げることが求められます。

広島G7サミットは、平和と核について考える機会になると考えられます。気候変動への取組を加速することは、世界の人々の平和を守る上で重要な意味を持ちます。議長国となる日本政府には、2022年の合意を土台に、電力部門を始め各部門の脱炭素化を加速させ、途上国支援を拡大する合意を牽引する役割を果たすことが期待されます。

執筆: 平田仁子・川口敦子